公務員が独立でつまずく、いちばんよくある順番
独立の失敗は能力ではなく順番で起きます。逆になりやすい4ステップ、先に決めるべき「仕事の形」、在職中に確かめる方法、つまずいたあとの立て直しまでまとめました。
この記事の要点
- つまずきの多くは能力不足ではなく、選ぶ順番が逆になっていることから起きる
- 「稼げる・未経験OK」で入り口を決めると、合わなかったときに引き返しにくくなる
- 先に決めるのは職種ではなく、自分が苦にせず続けられる仕事の形
- 退職直後は判断が急ぎがちになる。準備は在職中のほうが冷静にできる
- つまずいても、早く認めて方向を変えれば傷は浅い。生活費の残り月数がその猶予になる
独立に失敗した、という話を聞くと、能力や努力の話だと思いがちです。実際に聞いてみると、そうではないことのほうが多い。つまずきは、選ぶ順番が逆になったところで起きています。
この記事では、その順番と、逆にしないための具体的な手順を書きます。
逆になりやすい4ステップ
よくあるのは、この順です。
- 辞める
- 何で食べていくかを探す
- 見つけた仕事に必要な技術を学ぶ
- 合わないことに気づく
2の段階では、すでに収入が途切れています。だから探し方の基準が「早く稼げるか」に寄ります。そこに「稼げる」「未経験でもできる」という言葉が並んでいれば、当然そちらを選びます。
コミュニティの主宰である榊原立城も、この順番をたどりました。3月に退職して4月から動画編集を学び始め、向き不向きを確かめる前に大きい金額を先に払っています。払った金額が大きいほど、合わないと気づいてからも簡単には抜けられません。 そこから1年ほど、進む先が決まらない時期が続きました(インタビュー)。
ここで起きているのは「動画編集が悪い」という話ではありません。自分に向いているかを確かめる工程が、順番から抜け落ちていたという話です。
先に決めるのは、職種ではなく「仕事の形」
順番を直すと、こうなります。
- 自分が苦にせず繰り返してきたことを洗い出す
- その形に合う仕事の候補を、複数並べる
- 小さく試す。売らずに、無料で、短い期間で
- 続けられそうなものに絞ってから、必要な技術に投資する
1で洗い出すのは実績ではありません。何をしているときに疲れないかです。人の話を聞くのが苦にならない、手を動かして形にするのが好き、段取りを組むのが得意。こうした傾向は、職種より先に決まっています(強みが見つからないときの探し方)。
「仕事の形」は、次の3つがそろうと決まります。
- 何を:作る、教える、代わりにやる、伴走する
- 誰に:個人か事業者か、どの業種か
- どの形で:単発か継続か、時間で売るか成果で売るか
町役場の職員だったSHUNさんは、ノーコードツールに触れるところから始めました。最初から事業計画があったわけではなく、動くものを作れることが分かってから道が決まっています(インタビュー)。
「自分は何なら続けられるのか」は、一人で考えると堂々巡りになります。同じ立場の公務員・教員と、すでに外に出た人が、実際に何を試したかを共有している場所があります。
公務員コミュニティに参加するつまずく型を、あらかじめ知っておく
独立でつまずく形は、だいたい次の5つに分かれます。
| 型 | 何が起きるか | 先に打てる手 |
|---|---|---|
| 大きい投資を先にする | 合わなくても引き返せない | 無料・少額で試してから払う |
| 単価を決められない | 安く受けて疲弊する | 時間単価の下限を先に決める |
| 相手を選べない | 合わない相手の仕事が続く | 「誰に」を先に決める |
| 一人で抱える | 相談先がなく判断が遅れる | 外に話せる相手を作る |
| 家計の見通しがない | 焦りで条件を下げる | 決めなくてよい月数を出す |
このうち3つは、在職中に手を打てます。いちばん下の家計と、「誰に」の設定、そして外に話せる相手。技術より先にこちらを整えたほうが、結果的に早く立ち上がります。
在職中にやるほうが、判断は正確になる
同じ4ステップでも、収入があるうちにやるのと、途切れてからやるのとでは結果が変わります。焦りがないぶん、合わないと分かったときにすぐ手を引けるからです。
在職のまま、適法な範囲でできることは意外に多くあります。学ぶ、話を聞く、書き出す、売らずに作ってみる。ここまでは報酬が発生しないので、許可の話にもなりません(公務員が適法な範囲でできる準備は、どこまでか)。
具体的な進め方は辞める前に何をしておくかに、フリーランスとして始める場合に先に決めることは公務員を辞めてフリーランスになるとき、先に決めることにまとめました。
「小さく試す」の具体
小さく試す、と言われても何をすればいいのか分からない、という声が多いので具体を書きます。
- 1か月、毎週同じ作業を続けてみる:続くかどうかが分かる。出来栄えは見ない
- 無報酬の場面で、その役割をやってみる:地域の活動、知人の手伝い(適法な範囲で)
- 人に説明してみる:説明できないものは、まだ自分のものになっていない
- 完成させずに、一度止めてみる:戻ってくるなら向いている可能性が高い
判断の基準は「楽しかったか」ではありません。終わったあとに疲れ切っているか、それとも続きをやりたくなるかです。
つまずいたあとの立て直し
すでに進んでしまってから、合わないと気づくこともあります。そのときに効くのは、早く認めることです。
- 今月と来月の収支を出す(残りの生活費が何か月分か)
- いま進めているものを、続ける・縮める・やめるに分ける
- やめるものは、先に払った金額を理由に続けない
- 続けるものについて、相手と単価を見直す
- 期限を決める(あと3か月で変わらなければ方向を変える、など)
先に払った金額は、判断の材料になりません。 これから先にかかる時間と、戻ってくる見込みだけで決めてください。
榊原の場合は、1年ほどの迷いのあとにコーチングに出会い、そこで「自分の関わり方は教員時代と同じだ」と分かって道が決まりました。遠回り自体は避けられないこともあります。 避けられるのは、遠回りしている最中に引き返せなくなることのほうです。
公務員の経験は、独立で本当に効かないのか
「行政の経験は民間で通用しない」と言われて、独立でも役に立たないと思い込む人がいます。実際には、独立してから効いている部分がはっきりあります。
ひとつは、制度と手続きが読めることです。補助金、許認可、入札、行政とのやり取り。中の作りを知っている人は、外から見ている人より段取りが正確です。SHUNさんも、役場の業務の流れを知っていることが、そのまま仕事の質につながる場面があると話しています。
もうひとつは、正確さと期限の守り方です。独立してから最初に信用を作るのは、派手な提案ではなく、締切を守ることと、誤りのない書類を出すことです。ここは公務員の仕事で鍛えられている部分です。
効かないのは経験そのものではなく、それを外の言葉で説明できていないことのほうです(公務員は民間で通用しないのか)。
まとめ
- つまずきは能力ではなく順番から起きる
- 先に決めるのは職種ではなく、続けられる仕事の形
- 大きい投資は、試してからにする
- 在職中にできることを先に終わらせておく
- つまずいたら、払った金額ではなく残りの月数で判断する
辞めるかどうかの判断そのものは公務員を辞めたいと思ったら、決める前に確かめる3つのことを、後悔の分かれ目は公務員から転職して後悔する人としない人の違いを読んでください。
よくある質問5選
質問1独立して失敗したら、どうなりますか。
収入が途切れること自体より、次の一手を決められない期間が長引くことのほうが負担になります。生活費の残り月数を先に把握しておくと、立て直しの判断がしやすくなります。
質問2スクールや講座に入るのは間違いですか。
間違いではありません。問題になるのは、自分に向いているかを確かめる前に大きな金額を払うことです。無料・少額で試せる範囲で先に触ってみることをおすすめします。
質問3向き不向きは、どうやって確かめますか。
実際にやってみて、疲れ方を見るのがいちばん確実です。得意かどうかより、繰り返しても苦にならないかで見てください。
質問4公務員の経験は独立で役に立ちますか。
立ちます。制度と手続きを理解していること、関係者の調整ができること、正確に処理できることは、そのまま仕事の質になります。伝え方の問題であって、中身の問題ではありません。
質問5独立と転職、どちらから考えるべきですか。
別の設計なので、同時に進めると中途半端になります。収入の立ち方(提示額で読めるか、自分で作るか)で分けて、どちらの準備をするかを先に決めてください。
榊原立城(さかきばら もとき)元公立中学校 教員(16年)/現キャリアコーチ
コラムは主宰が内容を確認したうえで公開しています。制度や法令に触れる記述は、公開時点の条文と所属の規程を確認したうえで書いています。