この記事の要点
- 「通用しない」と言われる理由のうち、事実の部分と思い込みの部分を分ける
- 実際に差があるのは、速さと、数字で判断する習慣
- そのまま通用するのは、調整、正確さ、ルールの設計、説明の力
- 埋められる差は在職中に埋められる。辞めてから焦る必要はない
- 「通用しない」と感じるのは、多くの場合、言い換えができていないだけ
「公務員は民間で通用しない」。よく見る言葉です。言われている中身を分けると、事実の部分と思い込みの部分が混ざっています。
この記事では4つの理由をひとつずつ検証して、実際に埋めるべき差と、そのままで通る力を分けます。
① 決めるのが遅い
事実に近い部分があります。行政は、法令と合意の上で動く仕組みだからです。ひとつの判断に複数の課と決裁が関わるので、時間がかかります。
ただし、これは習慣の差であって能力の差ではありません。決裁の段数が減れば、決める速さは変わります。実際、移った人の多くは数か月で慣れています。
在職中に練習することもできます。「この件は自分で決めていい範囲か」を毎回意識するだけで、判断の速さは変わります。上に上げる前に、自分の案を1つ持ってから相談する癖をつけると、移ってからも効きます。
② 数字で判断しない
これも一部は事実です。行政の評価軸は、売上でも利益でもありません。だから数字で意思決定する場面に慣れていないことがあります。
埋め方は明確です。自分の担当業務を、件数・時間・単価で見る練習をする。 在職中からできます。
- 月に何件処理しているか
- 1件あたり何分かかっているか
- 手順を変えたら、何分短縮できたか
これをやっておくと、職務経歴書に書ける数字にもなります(公務員の経験を職務経歴書の言葉に置き換える)。
③ 前例がないと動けない
思い込みが混ざっています。前例踏襲は組織の仕組みであって、その人の性質とは限りません。制度上そうせざるを得なかっただけの人が大半です。
面接でこの点を聞かれたら、自分で変えた小さな例を1つ話せるようにしておくと十分です。様式を作り直した、確認の順番を変えて誤りを減らした、引き継ぎ書を整えた。規模は問われません。 自分の判断で動かした経験があるかどうかが見られています。
④ 潰しが効かない
これはほぼ思い込みです。行政の仕事は、民間の複数の職種に分解できます。分解しないまま「公務員一式」として見せるから、伝わらないだけです。
分解すると、こうなります。
- 制度に基づいて審査する → 審査、与信に近い判断業務
- 関係先と調整する → 折衝、プロジェクト進行
- 例規・要綱を整える → 業務ルールの設計、ドキュメント整備
- 窓口で説明する → 顧客対応、一次対応
「自分の経験は外で通用するのか」は、外の人に読んでもらうのがいちばん早い。公務員から動いた人が集まっている場所があります。
公務員コミュニティに参加するそのまま通用する4つ
| 力 | どこで効くか |
|---|---|
| 調整 | 利害の異なる相手をまとめる仕事 |
| 正確さ | 誤りが許されない業務、監査・審査 |
| ルールの設計 | 業務プロセスの整備、運用ルールづくり |
| 説明 | 住民・保護者対応で鍛えた説明責任は、顧客対応でそのまま効く |
町役場の職員だったSHUNさんは、ノーコードツールでのアプリ開発として独立しています。役場で見ていた業務の流れを理解していることが、そのまま仕事の質につながる場面があります(インタビュー)。
制度が関わる領域では、公務員の経験は参入する側の強みになります。 補助金、許認可、入札、公共調達。中の作りを知っている人は多くありません。
「通用しない」と感じたときに見るところ
自分の経験が薄く見えるときは、次の3つを見てください。
- 誰と、何を決めてきたか
- どれくらいの規模(金額・人数・件数)を扱ってきたか
- 自分で変えたものがあるか
3つめが弱いと感じる人が多いのですが、小さな手順の改善で十分です。こうしたものが、民間では「業務改善」と呼ばれます。
在職中に埋められる差
埋めるべき差は、速さと数字の2つです。どちらも辞めてから埋める必要はありません。
- 担当業務を件数と時間で測ってみる
- 期限を自分で前倒しして設定してみる
- 小さく試して、早く直す経験を作る
- 自分の案を持ってから相談する
この4つは、いまの職場の仕事の質も上げます。 転職の準備と、目の前の仕事を良くすることが、この範囲では同じ行為になります。
自分の強みが分からない段階なら、強みが見つからないときの探し方から始めてください。働き方の違いは地方公務員から民間に移ると、何が変わるかにまとめています。
面接で「通用しますか」と聞かれたら
採用の場面で、遠回しにこの点を確認されることがあります。「弊社のスピード感は速いですが大丈夫ですか」「民間は初めてですよね」。
答え方の型は、次の3段です。
- 違いを認める:「決め方や速さは違うと理解しています」
- 自分が動いた例を1つ出す:「前職でも、◯◯の手順を自分で変えて、△△を短縮しました」
- 応募先の仕事と接続する:「御社の□□の部分は、同じ組み立てだと思っています」
1を飛ばすと、分かっていない人に見えます。 認めたうえで具体を出すと、話が続きます。
逆に、「公務員でも大丈夫です」と抽象的に言い切るのは効きません。相手が知りたいのは意気込みではなく、判断の材料です。
入ってから効く、行政出身者の強み
移ってから評価されやすいのは、次のような場面です。
- 制度や契約の確認が必要なとき(読める人が少ない)
- 行政が関わる案件(補助金、入札、許認可)
- 記録や手順を整える場面(属人化を減らせる)
- 利害の違う相手との調整
「速さでは勝てない」と感じる時期があっても、上の場面で一度頼られると位置づけが変わります。 最初の数か月で焦らず、自分が効く場面を探してください。
町役場の職員だったSHUNさんも、役場の業務の流れが分かることが仕事の質につながる場面がある、と話しています(インタビュー)。
「通用しない」が思い込みになる理由
なぜ、これほど多くの人がこの不安を持つのか。理由は3つあります。
1|比べる相手がいないこと
職場にいるのは同じ公務員だけなので、自分の力が外でどう評価されるかを知る機会がありません。
2|評価の言葉が違うこと
行政の評価は「誤りなく、公平に」。民間でよく使われる「成果」「生産性」といった言葉で自分を語る練習をしていないだけです。
3|外からの言葉を真に受けてしまうこと
「公務員は楽でいい」「民間では通用しない」。言っている側も、根拠があって言っているわけではありません。
対処は簡単で、外の人に自分の経験を説明してみることです。 1回やるだけで、どこが伝わってどこが伝わらないかが分かります。
自分で確かめる方法
思い込みかどうかを確かめるには、次の3つが早い。
- 応募したい求人を3件選び、求められていることと自分の経験を突き合わせる
- 職務経歴書の下書きを作り、外の人に読んでもらう
- その職種で働いている人に1人、話を聞く
3つとも、辞めなくてもできます。 確かめたうえで「やはり足りない」と分かれば、何を足せばいいかが見えます。それも前進です。
まとめ
- 「通用しない」の中身は、事実と思い込みが混ざっている
- 実際に差があるのは、決める速さと、数字で判断する習慣
- そのまま通用するのは、調整・正確さ・ルールの設計・説明
- 制度が関わる領域では、行政の経験は強みになる
- 差は在職中に埋められる。辞めてから焦る必要はない
よくある質問5選
質問1民間経験がないと不利ですか。
職種によります。ただし「民間経験がないこと」より「何ができるかを説明できないこと」のほうが不利に働きます。
質問2スピード感についていけますか。
最初は戸惑う人が多いようです。慣れる部分でもあり、能力の差ではありません。
質問3年齢が上がってからでは無理でしょうか。
職種の選び方が変わります。任される前提の役割で入る道もあります。
質問4数字が苦手です。
会計の知識という意味ではなく、件数や時間を測って改善する習慣のことです。在職中の業務でも練習できます。
質問5公務員は競争意識が低いと言われます。
評価の仕組みが違うだけです。行政の評価軸は「誤りなく、公平に」で、そこを外さないことは民間でも価値になります。
榊原立城(さかきばら もとき)元公立中学校 教員(16年)/現キャリアコーチ
コラムは主宰が内容を確認したうえで公開しています。制度や法令に触れる記述は、公開時点の条文と所属の規程を確認したうえで書いています。