INTERVIEW 02独立・起業教員
教員16年から独立へ。「キャリア迷子」の1年を越えて
公立中学校の教員を16年務めて退職した榊原立城さん。辞めた直後に選んだ動画編集が合わず、1年間迷い続けた時期のことまで含めて聞きました。

この記事の要点
- 好きな仕事だったが、睡眠時間を削る働き方と体調(うつ・適応障害)が重なり「60歳までは無理だ」と考えた
- 親には辞める5〜6年前に「遠くない未来に辞める」と伝え、最後は納得を待たずに「もう決めたから」と伝えた
- 退職後すぐ始めた動画編集は自分に合わず、そこから1年間の「キャリア迷子」の時期があった
- 遠回りの原因は、自分の向き不向きを見ないまま「稼げる・未経験でもできる」で選んだこと
- 16年の教員経験は外では活きないと思っていたが、いまの仕事は当時の生徒との関わりの「大人版」だった
当コミュニティ主宰の榊原立城さんに、公務員(教員)を辞めるまでと、辞めたあとの3年半を聞きました。インタビュー動画の内容を、記事として読める形にまとめています。
16年、中学校の社会科と特別支援学級で
― まずは自己紹介からお願いします。
榊原立城と申します。現在はコーチングや、自己理解をベースにした事業設計をしていて、経営者の方やフリーランスの方の伴走をさせていただいています。もともと3年半ぐらい前まで、公立の中学校の教員をやっていました。
― 教員時代はどんなお仕事をされていましたか。
16年間、中学校の教員をずっとやっていました。基本的には通常のクラスの担任と、社会科の教員なので中学校の地理・歴史・公民の授業です。
ちょっと変わったところで言うと、その16年のうち2回は特別支援学級の担任をやっていました。そのときは社会科だけじゃなくて、体育をやったり国語をやったりもしていました。
「このまま60歳まで」が無理だと思った
― 独立を考えるようになったきっかけを教えてください。
すごく好きな仕事ではあったんです。ただ、教員はよく「忙しい」と言われますが、本当にそれを感じていて、睡眠時間を削って働くような感じだったというのがすごく大きいですね。
あとは、だんだん保護者の要求なども激しくなってきて、働きづらさを感じるようになりました。このまま60歳までこの仕事を続けるのは、嫌というか、無理だなと感じたんですね。
うつや適応障害といった疾患にもなったので、そこで真剣にキャリアチェンジを考えるようになりました。
― 講師の期間も含めると、20年近くですよね。
そうですね、講師も含めると本当に20年ぐらいやっていて。この時代の変化というか、昔は当たり前だったことが当たり前にできない、ということはすごく感じていました。
迷いは「親」と「お金」だった
― 退職しようと思ってから実際に決断するまで、どんな迷いや不安がありましたか。
いくつかあるんですけれど、ひとつは親との関係でした。
僕は教員になって1年目のときに、こんなに大変だと思っていなくて、しかも生徒との関係もあまりうまく築けなくて。1年目ぐらいのときに「もう辞めたい」と親に言ったんです。でも、せっかく教員になったのに、と残念がられたり悲しまれたりして、「3年はまずやってみたら」ということで続けたんですね。
そこから考えると、本当に結構長い間、辞めたいと思ってからも、親の反対や親の気持ちを考えるとなかなかできないなというのがずっとありました。
もう1個は経済的なことです。自分が教員を辞めたあとに、何の仕事ができるんだろうというのが全然見えなかった。お金の不安と、何の仕事をやって生きていけばいいんだろうというところがすごく大きかったですね。
― ご家族の説得は、最終的にどうされたんですか。
辞めるときは、親に納得してもらおうと思ったら無理だと思ったので、「もう決めたから」という伝え方をしました。
ただ、直前に言ったわけではありません。辞める5〜6年ぐらい前の時点で、「今年とかではないけれど、そう遠くない未来に辞める」と伝えてはいました。
辞めた直後に選んだ動画編集は、合わなかった
― 退職してから、いまのお仕事にたどり着くまでの経緯を教えてください。
在職中、最後の6〜7年ぐらいは辞めることを考えて、自分に何が向いているのかを考えたり、資格を取ってみたりはしていました。ただ、それで稼げるイメージはなかったんですね。
辞める最後の1年ぐらいのときに、動画編集でフリーランスという働き方が目に留まりました。ただ、在職中に教員をやりながら勉強する余裕はなかったので、スクールに入会だけして、実際に勉強を始めたのは辞めたあとです。3月で退職して、4月から動画編集を学び始めるという感じでした。
― 実際にやってみて、どうでしたか。
「稼げる」「未経験でもできる」というところを見て選んだので、全然自分に合わなくて。この動画編集をずっと続けていく未来が描けなかったんです。
そこから1年間ぐらい、キャリア迷子の時期がありました。いろいろ他の仕事もやってみる中でコーチングに出会って、これはすごく自分に向いているなと思ったので、これを仕事にしようと。自分でも受けたり、コーチ養成の講座を受けたりして、いまに至ります。
― その1年間は、やはり苦しい時期でしたか。
いやー、めちゃくちゃ苦しかったですね。
振り返って思うのは、自分に何が向いているのか、自分がどういう働き方をしたいのかがちゃんと見えないまま、動画編集にめちゃくちゃ突っ込んでしまったということです。しかもスクールに何十万円と払っているので、そこから簡単には抜け出せない感じでした。それが余計に大変だったなと思います。
もっとちゃんと自分のことを理解して、自分がどんなことをやりたいのか、どんなことに向いているのか。そこの自己理解はやっておいたらよかったなと思います。
だからこそ、いま自分がコーチングで、他の方の強みを活かすお手伝いをしているというのは、かなりありますね。
「教員の経験は外では活きない」は思い込みだった
― 公務員時代の経験で、いまの仕事に活きていることはありますか。
めちゃくちゃあります。
いまコーチングで、一人の方にいろいろお話を伺って、一緒に目標を設定して、そこに向かうアクションを立てて……ということをやっているんですけれど、それって中学校の教員時代に自分のクラスの子たちにしていた関わりと、すごく似ているんですよね。
生徒が「これを達成したい」という目標を持ったときに、じゃあ一緒に作戦を立ててやろう、と。そういうことがすごく好きだったので、その大人バージョン・仕事バージョンをやっている感覚なんです。
― 教員は次の仕事が難しい、というイメージもありますよね。
僕自身、辞めたあとは「この16年で経験したことは、学校の外では全然活かせない」と思っていました。でも、こんなに活かせるんだなというのを、逆にいま感じています。
一人ひとりの「どこで活きるか」を見る目
― 誰かのいいところを見つけて活かす、という視点の原体験はありますか。
やっぱり中学校の教員の経験が大きかったと思います。
学校って、割と物差しが「勉強ができる・できない」「運動ができる・できない」になりがちなんですけど、1クラスに30何人いると、それだけでは測れないものがめちゃくちゃあるんですよね。この子がいると周りが明るくなる、そんなに勉強が得意なわけじゃないけど仕事はめちゃくちゃきっちりやってくれる。いろんな要素が一人ひとりにあるなというのは、すごく実感していました。
この子は社会に出たらこういうふうに活躍しそうだな、この子が大人だったら一緒に働きたいな、と感じることがよくあって。いまその感覚でクライアントさんも見ているので、能力が高い・低いではない観点で相手を見られているとは思います。
特別支援学級の子たちと接したときも、すごくそれを感じました。体が不自由だったり勉強が得意ではなかったりしても、畑仕事でめちゃくちゃ活躍してくれたりする。どこでどの力を活かすかで、その人の魅力は輝くんだなということを、そこで実感させてもらいました。
独立してよかったか
― 振り返って、独立してよかったですか。
よかったです。後悔はないですね。
うまくいってもうまくいかなくても、全部自分で選んでいる結果だと思えるんですよね。いまこの瞬間うまくいっていなくても、じゃあ次はこうしようと思って進んでいける。そこが本当にいいなと思います。
今月稼げていても来月どうかは分からない。安定感ということで言えば、絶対に公務員のほうがいいなとは思います。でもそれよりも、自分の責任で自分の足で自分の未来を開拓していける、自由も責任もどっちも自分にあるというのが、逆に分かりやすくて心地いいなと思っています。
― 転職という道は、そもそも考えなかったんですか。
転職は考えなかったですね。組織の中ではなく、自分の思いで進んでみたいというのがすごくあったので。
教員時代も、これはおかしいなと思いながらやることはありました。子どもにとっては良くないよなと思うことでも、こう決まったからやりましょう、ということってあるじゃないですか。自分が納得できないのにやるというのが、すごく嫌だったんですね。組織に入るとそういうことは出てきます。
自分が納得できないこと、おかしいと思っていることをやらないで生きていけるほうが価値がある。そう思ったので、どこかの会社に勤めるということ自体が、最初からほぼ選択肢になかったですね。
いま迷っている現役の方へ
― 転職や独立を考えている現役の公務員の方に、伝えたいことはありますか。
教員も含めて公務員は、自分の経歴や、もともと持っている力が、いまの仕事以外の何で活かせるのかが見えづらいと思うんですね。僕自身もそうでした。それが見えないからこそ、すごく足踏みをしたし、怖かったなと思います。
でも、自分が外に出てみて、またキャリアに関わる仕事でサポートをさせていただく中で、必ず活かすことはできる、あなたの力を求めている人は絶対にいる、それを活かせる仕事もつくっていける、と思うようになりました。
絶対に辞めるのが正解だとは思っていません。ただ、自分の未来に選択肢を持つということを、現役のうちにやっておくのがすごく大切だと思います。
辞めるためじゃなくて、自分にはどんな可能性があるのかな、自分の力はどんなところで活かせるのかな、ということは、ぜひ勇気を持って見に行ってほしいなと思います。