公務員が適法な範囲でできる準備は、どこまでか
副業の可否は「やっていいか」ではなく、どの条文の話かで決まります。国家公務員と地方公務員の根拠条文、許可が要る行為と要らない行為、判断の手順、実際に許可が下りなかった人が取った手までまとめました。
この記事の要点
- 副業の話は1つの条文では決まらない。営利企業への従事の制限、職務専念義務、信用失墜行為の禁止、秘密を守る義務の4層で考える
- 「報酬を得るか」と「許可が要るか」は別の問い。分けて考えると線が引ける
- 許可の基準と窓口は所属ごとに違う。国家公務員と地方公務員では根拠条文も経路も異なる
- 許可が要らない範囲でできる準備が、実は準備の大半を占める
- グレーな手法には手を出さない。準備のために職を失うのでは本末転倒になる
この記事は2026年9月時点の条文と一般的な運用の整理です。許可の基準や様式は自治体・府省ごとに異なり、改正もあります。最終的な可否は必ず所属の規程と人事担当でご確認ください。個別の法律判断が必要な場合は、弁護士等の専門家にご相談ください。
「公務員は副業禁止」という一文だけが広く知られていて、その中身はあまり知られていません。実際には、禁止されているのは何か、許可が要るのは何か、そもそも制限の対象外は何かという層に分かれています。
ここを分けずに考えると、やっていいことまでやらなくなるか、やってはいけないことに手を出すかのどちらかになります。この記事は前者を減らすために書きます。グレーな手法は扱いません。
根拠になる条文は、1つではない
副業・兼業の話は、ひとつの条文で決まっているわけではありません。次の4つが同時にかかっています。
| 論点 | 国家公務員 | 地方公務員 |
|---|---|---|
| 営利企業への従事・自営の制限 | 国家公務員法 第103条・第104条 | 地方公務員法 第38条(任命権者の許可) |
| 職務に専念する義務 | 国家公務員法 第101条 | 地方公務員法 第35条 |
| 信用失墜行為の禁止 | 国家公務員法 第99条 | 地方公務員法 第33条 |
| 秘密を守る義務 | 国家公務員法 第100条 | 地方公務員法 第34条 |
公立学校の教員には、これに加えて教育公務員特例法 第17条があり、教育に関する職との兼職・兼業について定めがあります。
許可の窓口も違います。地方公務員は任命権者の許可(地公法第38条)、国家公務員は国公法第103条・第104条に基づく承認や許可で、経路も様式も別物です。ネットで見かける「任命権者に申請」という説明は、地方公務員の話です。
重要なのは、「営利企業への従事の制限」を通っても、残りの3つは常にかかっているということです。許可を得た活動でも、勤務時間中に行えば職務専念義務の話になりますし、職務上知り得た情報を使えば秘密を守る義務の話になります。
「報酬」と「許可」は別の問い
混乱のもとは、この2つが一緒に語られることです。
- 報酬を得るか:得るなら、多くの場合で許可の対象になる
- 許可が要るか:営利企業への従事・自営に当たるかどうかで決まる
たとえば国家公務員では、不動産賃貸などについて、人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)の運用通知で、自営に当たるかどうかの判断基準(独立家屋なら5棟以上、区分所有なら10室以上、賃貸料収入が年額500万円以上 など)が示されています。
ここは誤読されやすいところです。基準に届かなければ何をしてもよい、という意味ではありません。 基準以上なら承認が要る、という該当性の線引きです。届かない場合でも、職務専念義務や信用失墜行為の禁止は別途かかります。
地方公務員の場合は、同種の基準を各自治体が規程で定めています。近年は、地域活動や公益的な活動について副業の許可基準を公表する自治体も出てきました。一般論では線が引けない、というのが結論です。自分の所属の規程を読むのがいちばん早い。
判断の順番
迷ったときは、上から順に当てはめてください。
- その行為は、営利企業への従事や自営に当たるか
当たらない(学ぶ、話を聞く、書き出す、無報酬で手伝う)→ 許可の話にならない - 報酬が発生するか
発生する → 多くの場合、許可・承認の対象 - 勤務時間中に行うか
行う → 職務専念義務の問題。時間外に限る - 職務と関係のある相手か
関係がある(許認可先、委託先、所管の団体)→ 利害関係の問題。避ける - 所属が特定される形で出るか
出る → 信用失墜行為・秘密保持の問題。所属や氏名を出さない
このうち1つでも引っかかるなら、そのまま進めないでください。判断に迷う形は、やらない。 やらなくても進められる準備が十分にあります。
許可が要らない範囲でできること
準備の初期にやることの大半は、報酬が発生しません。つまり、許可の話にならないまま進められます。
- 自分の経験を、外の言葉に置き換えて書き出す
- 外に出た人に話を聞く
- 学ぶ(本、講座、独学、無料の教材)
- 小さく作ってみる。売らずに、動くものを1つ作る
- 家計を数字にする
- 職場の外に、話せる相手を1人作る
これだけでも、辞めたあとの1年はまったく違うものになります。具体的な進め方は辞める前に何をしておくかに、外とのつながりの作り方は職場以外のつながりを、在職中に作るにまとめました。
「これは許可が要るのか」で止まったまま、何年も動けずにいる人が少なくありません。同じ立場の公務員・教員が、適法な範囲でどう準備しているかを共有している場所があります。
公務員コミュニティに参加する許可が下りなかった人が、実際に取った手
町役場の職員だったSHUNさんは、正職員のまま副業で試したいと考えて、人事課長に何度も相談しました。結果は不許可でした。 取り付く島もなかった、と本人は話しています。
そこで取ったのが、パートタイムの会計年度任用職員に切り替えるという手です。パートタイムの会計年度任用職員は、地方公務員法第38条の営利企業への従事の制限の対象外になります。その立場で1年間試してから、独立しています(SHUNさんのインタビュー)。
収入も身分も変わる選択なので、誰にでも勧められる形ではありません。勤務形態や兼業の扱いは自治体ごとに定めが違うので、同じ形が取れるかどうかは必ず所属で確認してください。
ここで大事なのは、不許可は終わりではないということです。条件を変える、時期を変える、勤務形態を変える。取れる手は残っています。申請の実務は副業の許可を申請するとき、何を確認してから出すかに書きました。
やってはいけない3つ
1. 匿名だから大丈夫。 発信の内容から所属が特定されることがあります。特定されたときに問題になるのは、匿名だったかどうかではなく、行為そのものです。
2. 少額だから大丈夫。 金額の多寡は、営利企業への従事に当たるかどうかの判断とは別です。基準額が定められている場合も、それは該当性の線引きであって免責ではありません。
3. みんなやっているから大丈夫。 前例は根拠になりません。処分の判断は個別に行われます。
この3つは、いずれも「やっていい理由」にはなりません。準備のために今の職を失うのは、いちばん避けたい形です。
確認の手順
最後に、今日からできる手順をまとめます。
- 自分に適用される法律を確認する(国家公務員法/地方公務員法/教育公務員特例法)
- 所属の規程・要綱・様式を読む。庁内ポータルにあることが多い
- 分からない部分を、人事担当に一般的な質問として聞く
- 許可が不要な範囲の準備を先に進める
- 許可が必要な段階に来たら、様式に沿って申請する(申請の記事)
3の段階でつまずく人が多いのですが、制度の一般的な確認は、辞める意思の表明ではありません。それでも聞きにくい場合は、4から始めてください。
辞めるかどうかの判断そのものは、公務員を辞めたいと思ったら、決める前に確かめる3つのことにまとめています。
よくある質問5選
質問1会社員の副業と同じように考えてよいですか。
違います。会社員の副業は会社の就業規則の話ですが、公務員は法律に根拠があります。根拠が法律なので、勤務先の雰囲気や前例ではなく、条文と所属の規程で判断してください。
質問2無報酬なら何をしてもよいのでしょうか。
報酬がなくても、職務専念義務や信用失墜行為の禁止、秘密を守る義務は引き続きかかります。勤務時間中に行う、職務上知り得た情報を使う、所属が分かる形で発信する、といった形は無報酬でも問題になり得ます。
質問3申請は、どの段階で必要になりますか。
営利企業への従事や自営に当たる行為に着手する段階です。学ぶ、話を聞く、経験を言葉にするといった準備には許可が要りません。順序としては、許可が不要な範囲から進める形になります。
質問4家族の名義にすれば問題ありませんか。
実態で判断されます。名義を分けても自分が実際に運営していれば、自営に当たると判断され得ます。形式で回避しようとするのはやめてください。
質問5許可が下りなかった場合はどうなりますか。
不許可の理由を確認してください。時間帯、報酬の有無、相手方を変えると要件を満たすことがあります。勤務形態そのものを変えるという手を取った人もいます(本文で紹介しています)。
榊原立城(さかきばら もとき)元公立中学校 教員(16年)/現キャリアコーチ
コラムは主宰が内容を確認したうえで公開しています。制度や法令に触れる記述は、公開時点の条文と所属の規程を確認したうえで書いています。