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安定は、捨てるものではなく比べるもの

「安定を手放す踏ん切りがつかない」と感じるとき、安定の中身が曖昧なままのことが多い。収入・身分・時間の3つに分け、5年後を並べて比べる方法をまとめました。

この記事の要点

  • 「安定を捨てる」と考えると比べられない。捨てるのではなく、何と何を比べるのかを決める
  • 安定は3つに分けられる。収入の安定、身分の安定、時間の安定
  • 3つのうち、自分がどれを重く見ているかで結論が変わる
  • 比べるときは、いまと移った先の5年後を同じ項目で並べる
  • 比べた結果として残る選択は、我慢して残ることとは別のもの

「安定を捨ててまで、やりたいことがあるわけではない」。これは正直な言葉だと思います。そして、この言い方をしている限り、判断は進みません。

捨てるか捨てないかの二択にした瞬間に、比べられなくなるからです。この記事では、安定を分解して、比べられる形に置き換えます。

安定を3つに分ける

ひとくちに安定と言っても、中身は分かれます。

種類 中身 手放すとどうなるか
収入の安定 毎月ほぼ同じ額が入る。賞与と退職手当がある 変動する。立ち上がりに時間がかかる
身分の安定 簡単には職を失わない。社会的な信用が得やすい 自分で信用を作ることになる
時間の安定 勤務時間と休みが制度で決まっている 職場と職種による。増える人も減る人もいる

自分が惜しいと感じているのがどれなのか。3つのうち1つだけが理由なら、それを守る方法は退職以外にもあります。 たとえば時間の安定だけが崩れているなら、異動や担当の変更で戻ることがあります。

逆に、3つとも同じくらい惜しいなら、いま動くべきではないという結論も十分にあり得ます。それも判断です。

「身分の安定」は、意外と誤解されている

収入と時間は分かりやすいのですが、身分の安定は言葉にしにくい部分です。中身は主に次の3つです。

  • 簡単には職を失わないという前提
  • 住宅ローンなどの審査で有利に働く社会的な信用
  • 家族や周囲に説明しやすいこと

3つめを軽く見ないでください。「公務員です」と言えば説明が終わる、という状態は、実際に生活の中で効いています。 辞めたあと、自分の仕事を毎回説明することになる負担は、事前には想像しにくい部分です。

一方で、身分の安定は「辞めない限り続く」ものではありません。異動で仕事が変わり、制度が変わり、職場の人間関係も変わる。動かないことと、変わらないことは同じではない、という点も見ておいてください。

比べる相手を具体的にする

「安定」と「不安定」を比べるのではなく、いまの働き方と、具体的な選択肢を比べます。並べるのは5年後です。

項目 いまの職場を続けた場合 移った場合
手取りの月額 昇給の制度から見積もる 提示額と昇給の仕方から
働く時間 直近3年の実績から 求人票と、面接で確認
決められる範囲 いまと同じか、役職で変わるか 役割による
通勤と生活 異動の可能性を含める 勤務地で決まる
家族への影響 転勤・異動の範囲 収入の変動

数字と条件にすると、感覚の比較が判断に変わります。榊原立城も「安定という意味では絶対に公務員のほうがいい」と言い切ったうえで、自分で決められる範囲の広さを取っています(インタビュー)。どちらかを否定していないのが大事な点です。

比べる材料のうち、移った先の実際は、中にいると手に入りません。同じ立場から動いた人と、いま迷っている人が話している場所があります。

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「捨てる」を「減らす」に変える

安定を全部手放すか、全部守るか。この二択も、実は現実的ではありません。あいだの手があります。

  • 在職のまま、決められる範囲を広げる:異動希望、担当の交渉、庁内の公募
  • 収入の柱を1本にしない:適法な範囲で、将来の柱になるものを準備する
  • 時間の安定を先に取り戻す:担当の組み替え、業務量の記録と相談

いきなり全部を変えようとするから、踏み出せなくなります。どれか1つを動かして、様子を見る。 それで足りることもあります。

比べた結果、残るのは我慢ではない

比べたうえで「いまのほうがいい」と結論が出ることは、よくあります。それは我慢して残ることとは違います。

選べないから残るのと、選んだうえで残るのとでは、同じ職場でも働き方が変わります。選べる状態を作ることが先で、結論はあとから決めればいい、というのはこの意味です(公務員を辞めたいと思ったら、決める前に確かめる3つのこと)。

実際、比べたあとに残ると決めた人は、残ってからの動き方が変わります。異動希望を出す、担当を自分から取りに行く、外のつながりを持ち続ける。受け身で残るのをやめるということです。

「安定を捨てた人」の実際

外から見ると、辞めた人は安定を捨てたように見えます。ただ、本人たちの話を聞くと、捨てたというより別の安定に組み替えたという言い方をする人が多い。

  • 収入は下がったが、働く時間が読めるようになった
  • 変動はあるが、自分で調整できる範囲が広がった
  • 会社に依存しない形で、複数の収入の柱を作った

全部を手放したわけではなく、どの安定を優先するかを選び直しているということです。

榊原立城も「安定という意味では絶対に公務員のほうがいい」と言い切ったうえで、自分で決められる範囲の広さを取っています(インタビュー)。比べた結果としての選択です。

迷いが長引いているとき

何年も同じところで迷っている場合、比べる材料が足りていないことがほとんどです。次の3つのうち、どれが空いているかを確認してください。

  1. 移った先の実際(収入、働く時間、決められる範囲)
  2. 自分の経験が外でどう呼ばれるか
  3. 辞めた場合の数字(決めなくてよい月数)

1と2は、外の人と話さないと出てきません。3は今日中に出せます。「安定が惜しい」と感じている状態は、多くの場合、1と2が空いている状態です。

空いているところを1つ埋めるだけで、迷いの質が変わります。「どちらがいいか分からない」から「この条件なら動ける」に変わるからです。

数字で比べる前に、条件をそろえる

比べるときによくある失敗が、条件をそろえないまま並べることです。いまの職場は「実際の手取り」で、移った先は「求人票の額面」。これでは比べられません。

そろえるのは3つです。

  • 手取りで比べる(額面ではなく、税と社会保険を引いたあと)
  • 年間で比べる(賞与の有無を含める)
  • 時間あたりで見る(残業と通勤を含めた拘束時間で割る)

3つめを入れると、印象が変わることがあります。 額面が下がっても、拘束時間が短ければ時間あたりでは上がることがある。逆に、額面が同じでも拘束が増えれば実質は下がります。

まとめ

  • 安定は3つ(収入・身分・時間)に分ける
  • 惜しいのがどれかを特定する。1つだけなら、退職以外の手がある
  • 比べるのは「安定と不安定」ではなく、いまと移った先の5年後
  • 全部を変えようとせず、1つ動かして様子を見る
  • 比べて残るのは、我慢して残ることとは別のもの

やりがいが理由で迷っているならやりがいを感じないとき、何を見直すかを、将来の不安が中心なら将来が不安なとき、不安を3つに分けるを読んでください。

よくある質問5選

質問1安定が惜しくて動けません。おかしいですか。

おかしくありません。安定は実際に価値のあるもので、手放すかどうかは慎重に判断すべきことです。問題は、価値の中身を言葉にしないまま迷い続けることです。

質問2公務員より安定した働き方はありますか。

収入の変動という意味では、公務員の安定は高い部類に入ります。ただし「時間の安定」や「配置の安定」は職場によって差があります。

質問3比べた結果、残ることに決めてもいいのですか。

もちろんです。このコミュニティのコンセプトは「辞めても、辞めなくてもいい」です。選べる状態で残ると決めた人は、同じ職場でも働き方が変わっています。

質問4家族に「安定を捨てるな」と言われます。

家族が心配しているのは、多くの場合「収入の安定」です。そこだけを数字で示すと、話が具体的になります。

質問5一度辞めたら、同じ安定は戻りませんか。

自治体・府省によっては経験者採用や再採用の枠があります。実施の有無は所属によって違うので、辞める前に確認しておくと選択肢として残せます。

榊原立城(さかきばら もとき)元公立中学校 教員(16年)/現キャリアコーチ

コラムは主宰が内容を確認したうえで公開しています。制度や法令に触れる記述は、公開時点の条文と所属の規程を確認したうえで書いています。